【相談内容】
夫(事故当時59歳)が、バイクでの通勤途中に、自家用普通乗用自動車と衝突して転倒し、頭を打つなどのけがをしました。
気を失ったようですが、救急車が到着した頃には意識が戻っていたそうです。
約半年間にわたる治療が終わり、症状固定しました。
主治医曰く、撮影したMRIの画像を見る限り脳に異常はないとのことです。しかし、私は、事故前と比べて、物忘れがひどくなったり、怒りっぽくなったりしたと感じています。主治医は、高次脳機能障害と診断しています。
そこで、労災に後遺障害の認定を申請しましたが、むち打ちの14級しか認められませんでした。自賠責保険にも後遺障害の認定を申請しましたが、労災と同じ結果でした。
どうして、主治医が高次脳機能障害と診断しているのに、後遺障害として認められないのでしょうか。
【弁護士の見解・回答】
1 まず、ご留意いただきたいのは、自賠責保険においては、一定のの判断基準に基づいて、脳外傷による高次脳機能障害に該当するかどうか判断されるということです。そのため、臨床的に高次脳機能障害と診断されたとしても、必ずしも自賠責保険の判断基準によって脳外傷による高次脳機能障害と判断されるとは限らないということです。
2 具体的には、自賠責保険においては、脳外傷による高次脳機能障害であるか判断するにあたって、「交通外傷による脳の受傷を裏づける画像検査結果があること」が重視されています。
「交通外傷による脳の受傷」とは、外力作用に起因する脳の器質的病変が生じていることをいいます。この点で、非器質的精神障害と自賠責保険で障害認定の対象とされる脳外傷による高次脳機能障害は峻別されるのであり、この認定のために画像所見が重視されます(青本30訂版300頁)。
相談者の夫の場合、撮影したMRIの画像を見る限り脳に異常はないようですので、この点がマイナスの事情です。
3 さらに、自賠責保険において脳外傷による高次脳機能障害であるか判断するにあたっては、「一定期間の意識障害が継続したこと」も重視されています。脳神経外科では、意識状態を検査することが脳機能を推定する重要な物差しとなるのです。
受傷直後において、半昏睡から昏睡で開眼・応答しない状態(JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が6時間以上継続すると、後遺障害発生の恐れがあるとされます。また、健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続くと障害発生の可能性がでてくるとされています。
自賠責保険では、これらの意識障害が確認される事案を、脳外傷による高次脳機能障害が残存する可能性があるものとして審査する対象としています。なお、この数値は、高次脳機能障害発生の診断基準あるいは判定基準ではないので、「この数値の水準に達しないから外傷性の高次脳機能障害が発生したとは認定しない」、あるいは「水準に達しているから発生していると認定する」という取り扱いがされているものではありません(青本30訂版302頁)
相談者の夫の場合、意識障害は発生したようですので、高次脳機能障害が残存する可能性があるものとして審査の対象となりそうですが、救急車が到着した頃には意識が戻っていたようですので、この点もマイナスの事情といえそうです。
4 以上の2点からすると、高次脳機能障害について自賠責保険において後遺障害等級認定を受けることは困難でしょう。また、訴訟においても、上記の2点は重視されるのが通常ですから、後遺障害として認めてもらうことには困難が予想されます。
なお、自賠責保険においては脳外傷による高次脳機能障害であると判断されないとしても、臨床的には高次脳機能障害と診断されているようですから、今後、何かできることがないかについては、主治医に相談されるのがよいと思います。その場合、それに要する治療関係費等は、患者の自己負担になる可能性が高いので、ご自身の健康保険を使うのがよいでしょう。



