【相談内容】
相談者は、普通乗用自動車を運転中、青信号に従って交差点を直進しようとしたところ、対向車線から合図もせずに突然右折してきた加害者運転の普通乗用自動車に衝突されました。相談者は頸部捻挫、腰部捻挫等の傷害を負い、相談者の車両の右後部が損傷しました。
事故から間もなく、相談者はまだ治療中であり、自動車の修理もこれからという時期の相談でしたが、加害者側の保険会社の担当者から、相談者にも10%の過失があると言われ、驚いて相談にみえたそうです。
加害者は青信号だったとはいえ、相談者の車両が直進中に右折の合図も出さすに突然右折してきたのですから、相談者としては、自分にも過失があるというのは納得いかない、過失割合は誰がどのように決めるのか、というご相談でした。
【弁護士の見解・回答】
被害者にも過失(不注意、落ち度のことです)がある場合には、損害の公平な分担の観点から、損害賠償額から被害者の過失分が差し引かれることになります。これを過失相殺といいます。
過失割合は、当事者間の話し合いで合意が得られれば合意した割合によりますが、合意が得られなければ、最終的には民事訴訟で裁判官が個別具体的に判断して決めることになります。
しかし、裁判官によって、あるいは事件によって、過失割合の判断がバラバラになってしまっては、裁判の公正、公平や当事者の予測可能性が保てないので、実務上はこれまでの多数の裁判例を踏まえて事故類型ごとの過失割合を基準化した書籍(別冊判例タイムズ38号『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)』)が参考にされています。この書籍は、あらゆる事故類型を網羅しているわけではありませんが、典型的な事故類型ごとに、基本となる過失割合とそれを修正する要素を基準化しており、裁判外の示談交渉や当センターの示談あっ旋などの際にも参考にされています。
ご相談のケースは、上記書籍によれば、「四輪車同士の事故」で、「交差点における右折車と直進車との事故」のうち「直進車・右折車ともに青信号で進入した場合」の事故類型(上記書籍の【107】図)に該当し、基本となる過失割合は、直進車が20、右折車が80となります。これは、交差点では直進車優先であることを前提としつつも、直進車にも前方不注視やハンドル・ブレーキ操作の不適切等何らかの過失が認められることを前提として基準化されたものです。
直進車側、右折車側それぞれの態様ごとに基本過失割合の修正要素が設けられており、加害者側の保険会社の担当者は、右折車側の合図なしという修正要素から、直進車に-10の修正をして過失割合を直進車が10、右折車が90として、相談者にも10%の過失があると言ったものと考えられます。
しかし、相談者が通常の速度で停止線を越えて既に交差点に進入している場合に加害者が右折を開始したとすれば、直近右折の修正要素が考慮される可能性があります。直近右折の場合には、直進車に事故を予見して回避することができないからです。その場合、直進車にさらに-10の修正をすることになりますから、右折合図なしと合わせて、相談者の過失はゼロという可能性があります。
衝突位置、双方の車両の位置関係や速度、車両の損傷部位、ドライブレコーダーの画像等から、直近右折か否かを検討することになるものと思われます。
なお、当センター東京支部発行の2025年版損害賠償算定基準(赤い本)上巻にも過失割合の基準が掲載されており、交差点における直進車と右折車の事故で双方が青信号で進入した場合の基本過失割合は、直進車20、右折車80を基本とし、右折車側の修正要素である直近右折と右折合図なしはいずれも-10とされています(39図)。
もっとも、これらの基準はあくまでも一つの目安であり、絶対的なものではありません。最終的には事故ごとの個別具体的な判断となることをご説明しました。



