弁護士への相談事例集

交通事故による高次脳機能障害における将来介護費用の請求および計算方法について(ライプニッツ係数)

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【相談内容】

交通事故による脳外傷の結果、高次脳機能障害が残った現在中学3年生のお子さんの将来介護費用について、ご両親から相談を受けました。

A君は、小学校4年生(9歳)の時、横断歩道を横断中、走行してきた普通乗用自動車に衝突されて脳挫傷、頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫の傷害を負い、入院11日、通院実日数92日を経て、事故から約3年後の令和元年5月2日に症状固定(治療効果が期待できなくなった状態)と診断されました。固定時12歳、現在は15歳です。

後遺障害診断書に記載された傷病名は、「外傷性脳損傷、高次脳機能障害」であり、他覚症状は、「感情コントロールの低下、抑制困難、発動生の低下、情報処理速度低下、注意障害、記憶障害、遂行機能障害、症状の増悪・寛解の見通しとして、学習の積み重ねが難しく、知能指数低下していく可能性あり、感情コントロール低下・抑制困難のため社会的適応困難と予測される。」と記載されていました。そして、A君は、自賠責保険の後遺障害等級(事前)認定において、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」として自賠責保険後遺障害等級別表第二3級3号に該当する旨の認定を受けました。

示談交渉に当たり、A君のご両親は、加害者が加入する任意保険会社の担当者から、損害賠償額を提示されましたが、損害の費目に将来介護費用は含まれていませんでした。

しかし、A君は、事故前は、日常生活でも学校生活でも特段の問題はなく、成績面では各教科について、概ね「よい」又は「たいへんよい」の評価を受けており、授業や各種行事に積極的に取り組んでいましたが、事故後は、記憶や集中力の持続が困難になり、疲れやすく、また怒りっぽくすぐにイライラして感情の起伏が激しく、感情をコントロールできずに、仲の良い友達とも喧嘩になり揉めることが多くなりました。

中学に進学しても、多動、注意欠陥の傾向にあり、感情を抑制できずに友達を叩いたり、教師に暴言を吐いたりするトラブルが多かったことから、A君は中学2年から特別支援学級に転入しましたが、個別指導の授業中も私語が目立ち、集中を継続したり、行動を自制したりすることが難しく、授業中に疲れた様子を見せ、休み時間中にぐったりした様子で寝ていることがあること、日常生活を毎日記録する生活記録に何度も同じ内容を書いており、記憶に問題があると指摘されています。

 

このように、A君は、一応、日常生活における基本的な身の回りの動作については自立しており、一定程度の知的能力や行動能力は有しているのですが、自分でその場に適した行動を判断して遂行することができないために、親や教師が見守って適宜声かけなどを行う必要があります。そのため、お父さんは、事故後仕事を辞めて、学校への送迎や、自宅での看視や声かけを行っており、お母さんは、日中は自宅にいてお父さんと共にA君の世話をしており、夜間は仕事にでかけています。

 

そこで、A君の場合も将来介護費用を請求できないか、というご相談です。

【弁護士の見解・回答】

重度の後遺障害が残存し、生涯にわたり他者による付添いや介護・介助を必要とする被害者に対しては、損害として「将来介護費」が認められます。

一般的には、自賠責保険の後遺障害等級認定において介護を必要とするとされた場合(別表第一1級・同2級)について認められますが、別表第二3級以下でも、個別具体的な事情のもと介護の必要性ありとして、将来介護費用が認められるケースがあります。

介護の必要性の判断には定型的な基準がある訳ではなく、具体的な事情をもとに判断されるものですが、一般的には、食事、排泄、衣服着脱、入浴等の日常生活に不可欠な動作がどの程度自立しているのか、他者加害など危険の防止の必要性の有無、金銭管理、通勤・通学が一人で可能か、といった考慮要素をもとに、介護の程度、内容、近親者の身体的・経済的負担の程度などを加味して判断されると言えます。

将来介護費用は、将来介護費の日額×365日×平均余命期間に対応するライプニッツ係数という算式で計算されるのが一般的です。

将来介護費用の日額については、赤い本2022年版では、「職業付添人の場合は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円」とされており、青本28訂版では、「実際に支出されるであろう費用額に基づき相当額を認定する。近親者が付添を行う場合には、常時介護を要する場合で1日8000円~9000円を目安に算定する。」とされていますが、後遺障害等級3級の場合は、常時介護を要する場合に比較して、障害の内容と程度、必要とされる介護の内容と程度を勘案して、日額を減額して計算される可能性があります。

A君の場合、将来介護費用が認められるか、認められるとして日額いくらが相当かをこの場で簡単に判断することはできませんが、一般論としては高次脳機能障害3級の事案では将来介護費用が認められる裁判例も多く、その場合の日額は3000円から5000円が多いと言えます。

仮に、日額4000円が認められるとした場合は、症状固定時年齢である12歳男性の令和元年簡易生命表による平均余命は69年(令和2年3月31日までに発生した交通事故の損害賠償請求に適用されるライプニッツ係数19.3098)ですので、将来介護費用は2819万円余りとなります。(計算式)4,000円×365日×19.3098=28,192,308円

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